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先延ばし

▽50歳になった頃、「心穏やかに来世を受け入れる助走期間として、還暦までの10年間が重要に思えてならない」と書いた。還暦を過ぎた今、もはや先延ばしにできない。死を平然と受容できる平常心を求めて座禅まで参加した。何も考えずに心の中を「空」にする曹洞宗 (我が家の宗派) の座禅。心の中で問答を繰り返す臨済宗の座禅とは対照的で、この「空」の意味が分からなかった (「無」とは違う)。そもそも死の恐怖を克服したい欲求こそが煩悩だと、やっと気付いた。▽小学校時代の “お寺体験”。私と弟は10日間ほど知り合いの寺に預けられ、そこから学校に通った。日課は毎夕の「落ち葉掃除」。掃き清めても、翌日には枯れ葉が境内に落ちてくる。「2日に一度でいいのでは?」と先延ばしを願い出た私たちに、若い坊さんが柔和な笑顔で「心を掃くんだよ」と一言。毎日苦もなく俗事を続けるのが平常心。やがて魂は浄化されて往生できる。明日死のうが、百歳まで生きようが、人生の質は同じらしい。▽曹洞宗には厳しい修行も細かい制限もない。1日の少しの時間だけ、体調を整え (調身)、呼吸を整え (調息)、心を整え (調心) て、成仏した親族との思い出を慈しむことが最高の供養だとか。「こんな感じで行こうかな」と思い始めた、今日この頃。(SS) ▽子どもの頃から先延ばしが得意で、ラストスパートで頑張るタイプだった。夏休みが終わる頃になると、慌ててさっちゃんの家に行って、絵日記の天気を写させてもらっていた。大人になって、仕事に就くと、生活がかかっているので、ロケットスタートするようになった。それでも、やろうやろうと思っても、結局やらない、なんてことはよくある。▽先日、テレビを見ていたらTEDで「先延ばし」についての講演が流れていた。先延ばしクセのない人の頭の中には...

怖い

▽高校時代の書道教師Sは、山伏 (やまぶし) を思わせる大柄な体格、無造作に生やした髭 (ひげ)、怒り肩で強面 (こわもて)、相手を射抜く鋭い眼光 —— という風貌。それはまるで、宮本武蔵が『五輪書』(ごりんのしょ) を書き上げて、洞窟から這い出てきたような威圧感だった。「書に向かう前に、無念無想に近づくよう、瞑想から始めよ」「『白砂青松』『懐郷』『淡雪』をそれぞれ3回練習」といった指示が黒板に書かれているだけ。生徒の背後から手を取り、筆遣いを指導する時に、低い声で発する「止める」「跳ねる」「払う」「伸ばす」以外の言葉を耳にした記憶がない。一度だけ、クラスメートが耳に親指を当てて掌 (てのひら)...

応援

中間選挙直前。民家のヤードには支援候補者のサインボードが並ぶ。米国の政治への関わり方は日本とは違う。15年前の隣人は政治参加に積極的な70代の白人男性。選挙運動のボランティアが彼の家に集まり、談笑している光景が目に入った。「君の家の庭に支援候補者のサインボードを立てたい」 と彼が言うので、軽い気持で承諾したところ、その年を境に、両政党から選挙キャンペーンの小冊子が送られたり、応援を請う電話メッセージが増えた。元隣人の話では、支援政党の円形バッジ (通称:缶バッジ) を付けてレストランで食事をすると、同じ候補者を応援する店長が姿を見せて、料金を on the house にしてくれることも珍しくないという。米国では一人一人が政府と等身大で向き合う。18歳以上に選挙権を認める日本の改正公選法が3年前に成立した。高校での主権者教育は公平中立を重んじる日本では難しいと、教師をしている知人が嘆く。日本のマスメディアにも不偏不党の原則があるようだが、米国では新聞社が応援する候補者を社説で明らかにし、住民投票のガイドまで掲載する (公平中立どころか、日本なら世論操作)。それでも有権者は独自の判断で一票を投じる。そんな一歩進んだ民主主義が米国では確立されているようだ。...

熱中

 現在の私の風貌と体型からは想像できないだろうし、ましてや私の性格を知る人は誰も信じないが、20代後半の頃、趣味で始めたボールルームダンスに見境なく熱中していた。競技会には必ず出場し、個人レッスンに大金をつぎ込むのも厭わず、約3年間、生活費にも事欠くような、極貧生活を送る羽目になった。入賞して公共の場で踊る快感に取り憑かれた私は、大会用コスチュームを特注し、ラテンダンスには “ 葉型の銀ラメ ” をちりばめたワンピースで出場! 遠くから見ると、まるでウルトラマンの兄弟だ (私の父はそんな息子の姿を知らずに他界した。親孝行だった)。30数年が過ぎた今、ビデオを再生してみると、ダンスは所詮ビギナーの域を超えず、とても公表できる代物じゃない! (慚愧に堪えない自己嫌悪と冷や汗)。私はシアトルのダンススタジオに所属していたが、1980年代当時、世界的ダンサーを数多く輩出していたのはサンディエゴ (最高峰はロン・モンテス...

早合点

日本の旅先で『早合点』されたお話2題。▽家庭裁判所での相続処理が終わり、私は紅葉を眺めたくなり、そのままバスで湖へ出かけた。遊覧船に乗り込んだら、誰かが「何時に出航ですか?」と尋ねてきた。「1時15分ですね」と答えると、別の人から「2時には戻れますよね」と矢継ぎ早の質問攻め。さらに、若い男性が「ここでタバコ吸ってもいいですか?」と私に聞く。「何でオレに聞く?」と訝 (いぶか) りながらも、禁煙サインを指差すと「すいません」(ダジャレか?)。乗客が私に馴れ馴れしく接する理由が分かった。男の子が私に向かって「あ! 船長さんだ!」。家裁から直行した私の姿はスーツにビジネスバッグ。観光客とは思えないほど完全に浮いていた。▽人気観光列車『ゆふいんの森』の指定席をどうにか入手できた。駅員さんから「窓側の席です。団体さんとご一緒になります」と言われて乗車したら、全員が韓国からのツアー客だった。私の席から右へ通路を挟んだ3人はファミリーらしい。彼らは車掌さんに写真撮影を願い出たようだ。それとは知らずに顔を上げていたら、カシャリという音がした。その写真は「4人家族」になっていたはず。車内改札でも「4人」がほぼ同時にJRパスを提示し、車掌さんが私に「カムサムニダ 」。完全に “御一行様” の一員になっていた。 (SS) ▽私の周りには早合点や早とちりをする人が多い。母は、WiFiを勝手にウィーフィーと呼んでいたし、父の寝癖を直そうとして殺虫剤を噴射してしまったりもした。兄は、容姿に劣等感を持っているアルバイトの学生さんに 「人間、顔じゃないよ」と言おうとして「人間の顔じゃないよ」と言ってしまったらしい。そう言えば、有給を取っている日に間違えて出勤してきた後輩もいた。「食べ盛りですもんね~」のつもりが「高校生くらいの男の子って、食べ頃ですもんね~」と保護者を驚かせた教師歴30年の友人は、忙しさにますます拍車がかかっている。姪のこどもは法事の時、お坊さんに向かって「ねぇねぇ、お地蔵さん」と真顔で呼んでいて、焦った。姪はリップとスティックのりを間違えて使ったり、父は眼鏡をかけたまま、眼鏡を探し回ったことが何度もあった。そういう自分も、携帯をかけながら携帯を探し回っている。▽この早合点タイプの人間は、完璧さ、シビアさとは無縁な存在で、どこか人間臭くて、時には笑いを誘う無邪気な人が多い。「一緒にいるとなんだか楽しい」...

妥協

サンディエゴ・ユニオン=トリビューン紙に連載中の人生相談シンジケートコラム “Dear Abby” を毎日読んでいる。ストレートに主張するアメリカ人とは思えないほど、人間関係の悩みでは日本人の気配りに似た相談が多く、回答も不要な軋轢 (あつれき) を避けた和合優先の解決法を提示している。<Q:毎朝8時頃、近所の児童が大笑いしながら遊ぶ声が響きわたり、病気の夫が目を覚まして困っている。隣人関係を悪化させない苦情の伝え方は?><A:早朝や夜間でない限り、親は子供を外で遊ばせる権利がある。耳栓をして眠りにつくか、引っ越しを考えましょう>という妥協的な回答。諍 (いさか) いを望まないのは万国共通か。一方、離婚、転職など、人生の決断を迫られる相談には妥協を許さない、切れ味鋭い口調に変わる。<Q:横暴な夫と別れたいが、生活を考えると二の足を踏む><A:不満 (破綻している結婚生活)...

私の流行語

▽“Clueless” をよく使う。情報不足で理解が進まないと自虐的に呟 (つぶや) いたり、トンチンカンな相手にも心の中でこの言葉を繰り返す。Clueless は90年代初めに誕生した言葉で “He hasn’t got a...

私には子供がいない。親業 (おやぎょう) という成長過程の欠落している者が言うのも憚 (はばか) られるが、息子にとって父親は終生の否定的存在であり、その生き方を100%受容できないというのが本質だと思う。父も息子を見て、「自分の分身」と思える領域と「得体の知れぬ不気味さ」に複雑な感情を抱くのでは——。 私と父は互いに反目しないまでも、腹を割って何でも話せる相手ではなかった。ギリシャ悲劇『エディプス王』を引用するまでもないし、山岡荘八が描く柳生宗矩 (むねのり) と十兵衛の凄絶な父子関係を賞賛するつもりもないが、基本的に父と息子はのっぴきならない “敵対関係”...

2019年の予感

アマチュア占星家SSが勝手に予測する新年の世相。Politically correct を死語にした大統領の登場で、差別が是正に、独善が自尊の意味に変わった (これは、もう戻らない)。対話も不可能な深い分断。その中で、2019年12月2日まで、幸運と繁栄を象徴する木星が最大のパワーを与えられる人馬宮を進む。「分断」への絶望から、独自の信念/信条を唱える団体が数多く誕生する「分立」の時代へと移行する。多極化が進むも、木星と吉座相を形成する惑星が乏しく、一年を通して混沌状態が続く。2019年は新しい権威が確立する過渡期で「個人軸」が求められる時。自分の原点/行動原理を明確にしておかないと、時代の大波に呑 (の) み込まれる。ネットの影響力が最大限に発揮され、地球規模で新勢力のパワーが拡大。一方、米中の覇権争いは情報戦争の激化となって周辺国を巻き込む (白羊宮天王星 □ 磨羯宮冥王星+磨羯宮土星)。スポーツ界ではスーパースターがキラ星のごとく出現。2019年のラッキーカラーは紫...

食べる

食べる行為は人生に深い影響を与える。▽谷崎潤一郎が人間の性 (さが) を礼賛し、耽美的な小説創作に人生を捧げる決意を固めさせた食べ物 —— それは少年期に味わった玉子焼きらしいのだ。幼い頃に家業が傾き、住み込みの家庭教師をしながら旧制中学に通学していた谷崎は、食卓に出された「厚焼きの玉子焼き」の贅沢な味に感動し、自分の使命は社会の悲痛さよりも、玉子焼きの甘味のように、人間の愛 (いと) おしさ、美しさを表現し、人々を豊潤な至福の境地に導くことだと悟ったという。▽45年前、福島から東京の私立高に進学した私は一人暮らしを始めた。食事の世話をしてくれる叔母さんが長期入院してしまい、毎晩、近所の和食屋のカウンター席で夕食を取ることに。味噌汁はいつも冷めていたが、大人の中にいる高校生が「温め直してください」 とは言えず、切ない思いで箸を運んでいた。今でも冷えた味噌汁はトラウマになった哀しさが蘇るので、すぐに温め直す。▽父との “最後の晩餐...

もし…だったら

▽氷点下30℃に達するワシントン州東部の冬。アイスバーン (路面凍結) に車輪を取られ、突然スピンを開始。交通量が少なく、次第に減速し、奇跡的に車両後部を中央分離帯に軽く当てて止まった (もし、他車と衝突していたら…)。▽9.11テロ後、不気味なEメールが届いた。「バイオテロが始まる。青色の封筒に注意しろ」。迷惑メールとして消去したが、数日後、フロリダ州の地方新聞社に炭疽菌が郵送されて職員が死亡する事件が発生 (もし、会社に送られて、知らずに開封していたら…)。▽クリスマスの夜。オフィスで仕事をしていると、階下の別会社で何かが破壊される音がした。銃を携えた複数の強盗が侵入していた (もし、私たちが標的になっていたら…)。▽喫煙していた30年ほど前。ラテン系経営者のミニ売店でタバコを買おうとしたら、短銃を持った男が押し入り店主に銃口を向けた。店内は店主と私だけ。後ずさりして固まっている私に “Don’t do anything,...

北米各地を車で旅した若い頃は、フリーウェイよりもローカルの州道が好きだった。オレゴン州道97号線を北上し、ワシントン州道2号線でカスケード山脈を通り抜け、カナディアンロッキーの “氷河ハイウェイ” を涼風に吹かれて飛ばしていく道中は、まるで風景画の中をドライブしている気分。景観は劇的に変化するし、広葉樹と針葉樹の分布境界にも気付かされて面白い。一方で、ローカルハイウェイでは想定外の事態にも遭遇する。ネバダ州道95号線でファロン海軍航空基地の近くを旅行中、1機の戦闘機 (ホーネットか?) がバックミラーに映し出された。軍事演習場から離れた公道上空にもかかわらず、その機体は低空飛行を始めたかと思うと、私の車の上を轟音とともに掠 (かす) め去り、再び高度を上げる。すると、はるか先の上空で旋回し、今度は正面から同じことを繰り返して姿を消した。イラク戦争時に、米軍機が敵の装甲車をピンポイントの精度で撃破する映像を CNN で何度も見たことがあるが、それこそ私の車を標的にして、機銃掃射の空射シミュレーションをしていたに違いない。私は逃げることもできず、恐怖と困惑の真っ只中に。田舎道をトボトボ走っている中古の民間車を相手に攻撃練習をする非常識ぶり。どういう了見なのかと腹も立った。...

数字

▽ 数値化される人間 (スコア化される人格)=衝撃のNHK特集。中国政府は個人データを総集して、国民の社会的信用度を厳格に格付けしている。“クレジットスコア” は概してローンやクレジットカード申請に影響する数字。ところが中国では、個人の信用度を最低350点から最高950点までの数字で評価し、高スコアなら貸付金利や病院の受診条件が優遇されるなど、日常生活で多くの特典が与えられる。一方、低スコアだと航空券予約や出会い系サイトへの入会まで拒絶される。これは中国ならではの人民監視政策? 世界全体で成功者のゲノム解析とAIによる個人評価が徹底化され、優れた可能性を秘めた人物を早期に割り出す「選民社会」が出現する余地はある。もはやAI論議は人間 vs. 人工知能という対立構図じゃないかもね。人間界の淘汰を前提に、一人一人が未来社会で幸福を獲得する道を模索すべきと若い歴史学者 (Y・N・ハラリ) が論じていた。▽数字の隠し芸...

頑固

一度決めたことは変えたくない性分だ。最近、その傾向に拍車がかかり、加齢とともに「ガンコじじい」路線をまっしぐらに 突き進みそうなので、何とかしなければならない。▽夕暮れ時のウォーキングを始めて15年。3.5マイル (約5キロ半) / 75分のルートを毎日歩く。仕事の都合で時間帯が午後8時以降にズレ込むと「 一緒に食事できない」と妻から苦情が出る。私「健康寿命を伸ばすための有酸素運動。サボリ癖が付くので1日も休めない」。妻「 嵐だろうが、雷雨だろうが、意地になって歩くのは頑固というより、もはや病気。XX通信社さんから頂いた紅白の傘を差して歩くのだけはヤメよう」。 ▽賞味期限切れの食品に敏感になり、冷蔵庫を覗 (のぞ)...

内緒

▽今年3月、FBI や NSA (国家安全保障局) が令状なしで、無制限に個人データにアクセスできる権限を与える「CLOUD法」が成立した。官憲側は内緒にしているが、テロ監視強化として、米国内に潜伏する “危険人物” を割り出すプロファイリングを徹底するらしい。ネットの検索記録やオンライン購入履歴、電話やメールで頻用する言葉から、その人物の行動様式が推測できる。とりわけ “危険ワード” に指定されている単語をSNSで多用していると、破壊行為や殺人計画を意味する暗号と疑われる。その根拠は知らないが、「サンディエゴ」や「サーフィン」も...

ピンチ

1993年にサンディエゴで世界少年野球 (WCBF) が開催された時の話 (古い話で恐縮です)。野球ファンの私は、日米のスーパースターが集まる前夜祭ディナーに出席し、WCBF設立者の王貞治、ハンク・アーロン両氏のほか、ジョー・ディマジオ、デューク・スナイダー、掛布雅之、柴田勲など往年の名選手を前にしてハイパー状態になっていた。各テーブルに1人ずつOB選手が加わると聞いてワクワクしていたら、登場したのはビリー・ノース。陽気な彼はワールドシリーズのチャンピオンリングを私の指にはめてくれたり、ホロ酔い加減で “♬Take Me Out to the...

おみやげ

留学時代、論述の基本を学ぶ外国人対象の必修英語クラスがあり、担当教官は強烈なキャラクターを持つ老練の白人T氏だった。T氏は無類の日本好き。日本贔屓 (びいき) の die-hard ぶりを教室で遺憾なく発揮していた。小津安二郎監督と原節子の大ファンで、授業中に『東京物語』を鑑賞させたりもした。日本語の俳句の響きに深い情趣があると絶賛し、有名な一句を日本人に詠唱させるなど、他の外国人学生には迷惑な独善的行動を繰り返す。邦人学生は成績の上積みを期待して、日本のおみやげをT氏に贈っていた。私も特大の郷土玩具『赤べこ』をプレゼントしたら「首に触れると、前後左右にユーモラスな動きが30秒以上も続いて感動しました」と綴られた丁寧な礼状まで届いた。T氏は嬉しそうにおみやげをクラスに持ち込んで、得意気に説明するようになった。ある時は浴衣姿で現れてクラス全員仰天! 最大のお気に入りは学生Aが贈った『尺八』。毎回、“和製リコーダー” を携えて登場し、顔面を真っ赤に紅潮させながら、出鱈目 (でたらめ) な真似事で...

つい…

タバコをやめたのは16年前。完全禁煙を達成するのに苦労した。禁煙セラピーに通うのも気恥ずかしく、自力でタバコと別れを告げたいと思っていたところ、通販で「全米500万人が禁煙に成功! あなたもできる!」と銘打たれたビデオを発見! 30日以内に返品できることを確認し、取り寄せてみると、これが意外にも説得力のある内容。禁煙できない人の深層心理を解きほぐし、慈愛に満ちた映像と環境音楽を駆使してコンプレックスを解消してくれる。これだ! 私は心身ともにリラックス状態になり、喫煙に終止符を打てる自信が体内に満ちてくるのを感じた。ビデオが終盤に向かう頃、私の右手には、つい無意識に火をつけたマールボロが挟まれていた。・・・ 喫煙と訣別できた契機は、ヘビースモーカーの恩人が病魔に冒され、55歳の若さで不帰の客となった訃報。私はタバコ4カートンを買い、これ見よがしに自分の机の周りにバラまくという “荒療治” に転じた。全てを吸い尽して体内に溜まる「毒」を考えただけで恐怖感に囚われる。1箱だけなら「1本くらいは」と妥協心も生じるが、この環境では「つい1本」という出来心も封印される。手を出せば人格も否定されるという強迫観念が完全禁煙への扉を開いた。 (SS)  ▽つい、夕飯の時間が遅くなってしまう。食事をする時間を変えるだけで、ダイエットの効果に差が出てくるらしい。太りにくい時間帯は「起床後30分」と「14時~16時」、太りやすいのは「就寝前」と「22時~2時」。つい、夜遅い時間に食べてすぐ寝るのは、ものの見事にメタボ街道まっしぐらの悪いクセ。会社で早めの夕食をとるようにしたら、体重計のメモリが少しずつ下降し始めた。▽つい、思わず、うっかり。日本語を勉強している日本人の中学生からその違いを質問された。Unintentionally、Reflexively、Carelessly。微妙なニュアンスの違いをうまく説明できなくて焦ったが、一緒に和英辞典をチェックして納得。改めて質問されるまで無意識に使い分けている日本語があるものだ。▽つい、先延ばしするクセがあった。わかっちゃいるけど、動けない〜♪。夢の中で頑張っても進まず、実際にやったら簡単だったことも。いつの頃か、気が進まなくても、とりあえずやるようにしたら、少しずつ「やる気スイッチ」が入るようになった。「すぐやる。必ずやる。出来るまでやる」。今は、日本電産の創業者、永守重信さんの経営哲学が目標。とにかくやってみることが大切なのだ。 (NS)...

妄想

旧家を解体した24年前に家系図が出てきた。先祖は奥州藤原氏に仕えた武士だった。この家系図を霊能力のある高僧 (?) に見せてから、我が家に妄想の嵐が吹き荒れる。私は幼少の頃から閃光 (フラッシュライト) と濃赤色が苦手で、恐怖さえ感じていた。霊能者に言わせると、光は刃 (やいば) の照り返しで、赤を忌避するのは、血に関連した過去世の記憶が無意識下に潜んでいるらしい (斬殺されたとでも?)。さらに “霊告”...

無い!

私はこう見えてヘタレである。▽初めてビジネスクラスに搭乗した時、エコノミーとは勝手が違う環境に戸惑いを隠せなかった。エンターテイメント機器に使用するヘッドホンが立派なのは良いが、差し込み位置が分からない。シートの調整機能を示す複雑な (?) 図解、謎めいた周辺装置と意味不明の絵があしらわれた複数のボタン・・。説明を求めるのも初心者バレバレで気後れするし、どうしたものかと少し困っていたら、妻が「毛布が無い!」と言い出した。担当CAさんに尋ねた妻に返ってきた言葉は「お客さまが、その上に座っていらっしゃいます」。これで何でも聞けるようになった。ありがとう、妻よ。▽ハ虫類が大の苦手だ。それなのに、細身のトカゲ君が屋内に侵入してくることがある。ガサゴソという音の正体を見極める勇気など、さらさら無い! ハードウッドフロアの木目に沿って身じろぎもせず、私を出し抜くように擬態していた時は、見て見ぬ振りをしているうちに姿を消してくれた。物置に隠れていた時は、掃除機で吸い込む提案をした私を尻目に、妻が虫取り網で捕獲 (私の権威は失墜した)。クローゼット内のトカゲを捕まえたのは飼い猫の「ピピ」だった。それを咥 (くわ) えて私の前にポトリと落とすなんて、どれだけシャレの分かる猫なのか。 (SS) ▽チケットが無い。今年から高校野球甲子園のチケットの販売方法が変わった。自分の姪は二松学舎大付属高校の卒業生なのだが、今年は徹夜しないと当日券が手に入らないと聞き、甲子園の応援を諦めたそうだ。泣く泣くネットで高額転売されたチケットを押さえた友人もいるという。本当に必要な人がチケットを手に入れられない状況は、より強まる気がする。▽スマホが無い。インターン生のMさんはサーフィンをしている最中、防水ポーチに入れたスマホを海に落としてしまった。陸に上がり、友人のGPSを借りてスマホの現在地を特定するも反応無し。諦めていたところ、シュノーケリングをしていたというファミリーが笑顔で近づいてきて、彼女のスマホを届けてくれたとのこと。拾った人へのメッセージと持ち主への発信ボタンを画面に表示する、そんなスマホを探す機能があることを初めて知った。奇跡のような話に感動した。▽苗字が無い。知り合いのスーダン人の氏名はやたらと長い。何でもスーダンでは苗字はないそうで、名前の次は父親の名前、その次は祖父の名前、曽祖父 (ひいじい)...

なんだこりゃ?

アメリカで生活していると、日本では到底あり得ないスケールの大きい出来事に遭遇することも珍しくない。「なんだこりゃ!」と 度肝 (どぎも) を抜かれたことが、これまでに何度あったことか! 初めて家を買った時、仕事場としての機能を高めるため、ガレージの1/3 を暗室に造り替えた。家の西側に出られる小さなドアも暗幕で覆い、長く使用することがなかった。それから十数年後、暗室の実用性がなくなり暗幕を撤去したら、ドアの小窓からは何も見えず木目のようなものが・・。 これは何だ?・・外に出ようとしても開かない。 裏から回った私はまさに jaw-dropping...

驚いたこと

日本に家墓を持つ人は「墓守」 の継承が現実問題として存在する。まして私のような直系長男となると無視できない。私たち夫婦に子供がいないので、近い将来、先祖の「永代供養」 あるいは「墓じまい」 の決断を迫られる。永代供養は1霊30万円〜200万円が相場らしく (+ 離檀料)、先祖の骨壺数から考えると論外になる。一方、少子化という現実から活況を呈しているのが墓じまいビジネス。私が見つけたのは、墓石撤去+散骨の場合、4人の遺骨なら約50万円というお手頃価格。驚いたことに、遺骨を形見としてアクセサリーに加工してくれるサービスもある。さらに驚いたのは、残骨灰の所有権を持つ自治体が故人の金歯・銀歯などの有価金属を業者に売却し、収益を歳入にしているという事実。今の時代、墓じまいが経済的にも社会還元の見地からも合理的な方法かも。ともあれ、自分の死後に家墓が無縁墓として放置されてしまうのは避けたい。「葬送」 と 「処分」 の境界線を明確にして、先祖の尊厳が失われない賢明な選択をしたい。...

チャレンジ

▽東日本大震災の発生から丸1日ほど、母と弟が暮らす福島市の被災状況を知ることはチャレンジングな作業だった。当然だが、TVやネットニュースが克明に報道していたのは大津波の被害に見舞われた地域。市民からの「福島市は火事も起きていません、大丈夫」というツイッターを信じるほかはなく、翌日、弟から「2人とも無事」との電話を受けた時は安堵感で全身の力が抜けた。▽4年後、サイマル配信による有料サービス「radiko プレミアム」を知った。日本全国のラジオが聞けるので、緊急事態でも福島の情報をリアルタイムで得られる。入会しようとしたら、IPアドレスが異なるので国外からはアクセスできないという。さあ、どうする? ▽ここで諦めずにチャレンジするのが海外生活者 (笑)。要するに、外国からのアクセス規制は日本のエリア内のサーバーを経由することで問題解決。日本にあるPCに遠隔アクセスすれば、米国からもVPN接続ができて聴取可能 (でも、面倒すぎる!)。ようやくIP共有型の実験的なVPNサービス (無料の海賊版) を探し当て、聞けるようになった。VPNのビジネス化が加速すると海賊版は消失し、今年からは月額¥1,000ほど支払ってサービスを受けている。時間の経過とともにチャレンジングな状況も大きく変わる。(SS) 価値あるアイディアを広めている非営利団体TEDの動画「Try something new...

2017年を振り返って

1年を振り返ると、個人的には生活上の変化に乏しい年だった。日常の些事を細かく書いてもつまらないので、サンディエゴの住民として12か月を回顧してみたい。2017年はNFLチャージャーズのロサンゼルス移転 (1月) で幕を開けた。半世紀以上の歴史を刻む本拠地を捨てたチームに市民は失望し、空虚感とともに新年がスタート。カリフォルニア州全体で「排ガスゼロ」の車販売 (14%以上) が義務化されたことから、今年は「EV元年」と呼ばれた。SDG&Eと日産、BMWが提携してEVの大幅割引 (8〜9月) が実施されたが、庶民感覚では「セレブ向け」との印象がまだまだ強い (テスラの最新型 EV...