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| — — 宝石デザイナーの具体的な仕事内容を教えて下さい。ロサンゼルス郊外のローリングヒルズで宝石店「アート・オブ・クリエーション」を経営し、世界各地から宝石の原石を探し出して、研磨、カット、デザインの一連の作業を通してアクセサリーを作っています。1年のうち7か月をアメリカで、5か月を日本と東南アジアで過ごしています。弊店の場合、お客様の7割がカスタムメイドの宝石を好まれますので、お客様一人一人の宝石をデザインしています。 これらの作業の中で最も留意している点は「生きている石」を探すことです。そして、デザインで一番心掛けているのは「お客様の魅力を宝石によって表現する」ということです。これは宝石デザイナーという職業の最大の任務です。私は宝石を知らない方々をこの魅惑の世界へと導く水先案内人だと思っています。欧米人と日本人では容姿、背格好、手の大きさが違いますので、日本人に似合うデザインを追究しながら最高の装身具である宝石を作っているのです。
中学校の臨海学校での記念写真
——宝石に興味を持った時期は。 中学、高校の頃になると、自然の美しさを写真に収めるようになっていました。父親が手描き友禅をしていたことや、近所に簪 (かんざし) や帯止めを作る職人さんたちが住んでいたこともあり、美しいものに対する感性が研ぎ澄まされていきました。特に、刀の鍔 (つば)、茶釜、宝石などを作ることに興味を引かれていた私は東京都立工芸高校・金属工芸科に入学しました。同級生の7割近くは親の稼業が宝石関係という環境でした。そんな16歳の夏、同級生の家に遊びに行って、その子のお父さんに見せて頂いたダイヤモンドとエメラルドに魅せられてしまったのです。本物の宝石を初めて見た瞬間でしたが、胸の高鳴りを抑えることができませんでした。こんなに素晴らしいものがこの世にあるのか…と。この時から宝石についての興味が尽きることなく湧いてきたのです。 —— 宝石の魅力を一言で言うと。
日本の宝石卸会社に勤務していた頃。真珠の講習会にて
—— 宝石デザイナーを志望した理由は。 渡米してロサンゼルスのダウンタウンに宝石の卸専門店を開店し、日本で従事していた仕事と同じように宝石の小売店の方々をサポートする立場にいたのですが、そんな日々を繰り返しているうちに疑問が生じたのです。自分が製造した宝石を身に着けるのはどんな人だろう? 私が手掛けた宝石は喜ばれているのだろうか? その回答を得るには、自分がお客様と直接に関わる以外にないと思うようになりました。そんな時、友人を介してある人に宝石のデザインを施す機会が与えられたのです。それを機に、一般客向けにデザイン制作をする仕事が口コミで舞い込むようになり、自然にお客様が増えてきて、現在に至っているというわけです。
宝石市場を視察にタイを訪問
—— 渡米した理由は。 アメリカに非営利組織が運営する GIA (Gemological Institute of America=1931年に宝石学の教育機関としてカリフォルニア州で設立されたアメリカ宝石学会) という鑑定士を育成する学校がありますが、そこに在籍または卒業した日本人の知り合い数人がいましたので、1979年5月に彼らを頼りに渡米しました。
水野さん自慢の作品
—— アメリカで学んだことは。 異文化からも多くを学びました。各国の文化の多様性に匹敵するように、個人の物の見方がそれぞれ違うということです。特に、カリフォルニア州は世界各国から人々が集まる文字通りの「人種の坩堝」ですから、宝石に対する見方も様々で、宝石デザイナーとして学ぶことが数多くあるのです。 アメリカの宝石から学んだことは「遊びがある」ということでしょうか。これも言い換えれば「楽しむ」ということになるのですが、空間を巧妙に利用したデザインが多いのが特徴です。日本の宝石は「高さ7ミリで作る」などの細則が存在して、どちらかというと整然としたもの、完璧なものを宝石に求めます。例えば「このサイズなら、こういうデザインで行け」という至上命令が下ります (笑)。スキが無いものを作ることを重視しているのです。
LA・ダウンタウンで開店 (1983年)
—— 座右の銘は。 ——宝石デザイナー冥利に尽きる瞬間とは。 例えば、珍しい宝石を前にして感想を述べ合う時、たった一言で宝石商のお互いの目が輝き、心が通じ合う瞬間がありますが、これが至福の時と言えるかもしれません。宝石業界には各自が見つけた自慢の石を披露し合うという喜びがあり、それは商売を越えた次元の世界なのです。 たまたま仕事の商品として扱っているのが宝石というのではなく、宝石を扱う仕事にもっと携わりたいという本能が日増しに強くなってきています。宝石の魅力を知らない人にこの醍醐味を伝えたいと、心の底から願いながら宝石と接していますので、それがお客様に伝わり、私の気持が理解された時に深い喜びを感じます。お客様の笑顔に囲まれて生きている自分は何という果報者だろうと思ってしまいます。
アメリカの仲間たちと (写真右が水野さん)
——将来の夢は。 ——最後に、宝石を選ぶ際の注意点を教えて下さい。 宝石の深い魅力を理解せずに利益だけを求めて販売している宝石店も多いので、ご自分の良識で弁別することが大切です。最近は人造石が多く出回っていますが、宝石店によっては人造石だということをお客様に伝えずに販売している現実も見受けられるので注意が必要です。例えば「着色されたイエローのダイヤモンド」を「天然のイエローダイヤモンド」と聞こえるように商売している宝石商も存在しています。偽の保証書や鑑定書を発行している店もあるので、これも要注意です。 高価だからこそ良質と考えずに、ご自分の好みで、素直に宝石の素晴らしさを感受することがポイントです。高価な装身具だから美しくなるのではありません。その宝石を美しいと感じる心こそが、あなたを美しくさせてくれるのですから。 |